「私たちは大西洋の下にトンネルを掘り、旧世界を新世界に数週間近づけようと熱望しているが、ひょっとすると、その努力によって最初にアメリカの大きく揺れる耳に届くニュースは、アデレード王女が百日咳にかかったということかもしれない」

ヘンリー・デイヴィッド・ソローの名言・格言・警句(画像はイメージです)
ヘンリー・デイヴィッド・ソローの名言・格言・警句(画像はイメージです)
  • 1817年7月12日~1862年5月6日
  • アメリカ合衆国出身
  • 作家、思想家、詩人、超越主義哲学者、自然と個人主義の擁護者

英文

“We are eager to tunnel under the Atlantic and bring the Old World some weeks nearer to the New, but perchance the first news that will leak through into the broad, flapping American ear will be that the Princess Adelaide has the whooping cough.”

日本語訳

「私たちは大西洋の下にトンネルを掘り、旧世界を新世界に数週間近づけようと熱望しているが、ひょっとすると、その努力によって最初にアメリカの大きく揺れる耳に届くニュースは、アデレード王女が百日咳にかかったということかもしれない」

解説

この言葉は、技術革新への熱狂と、その目的の空虚さを鋭く皮肉ったソローの批評精神を示している。ここでは、旧世界(ヨーロッパ)と新世界(アメリカ)を結ぶ通信手段の発展――おそらく海底電信ケーブルの設置を念頭に置いて――が語られているが、その目的が「王女の病気のニュース」という取るに足らない情報の伝達で終わる可能性を挙げることで、人間の努力が本質的な意義を見失い、表面的で軽薄な目的に流れてしまう危うさを浮き彫りにしている。

この視点は、ソローの自然主義的かつ精神重視の価値観と対照をなす文明批判の一部である。彼は『ウォールデン』の中で、技術の進歩が必ずしも人間の精神的成熟や社会の改善に寄与するわけではなく、むしろ情報や速度の過剰が本質的な思索や価値の追求を妨げると考えていた。この名言は、何を伝えるかよりも、なぜ伝えるか、何のために繋がるかを問い直すべきだという強い問いかけを含んでいる。

現代においても、情報技術が劇的に進歩したにもかかわらず、SNSやメディアで流れる内容が取るに足らない話題やゴシップに支配されている現実は、まさにソローの指摘のとおりである。この言葉は、技術の力を過信することへの警告と、それをどう使うかという倫理的な問いかけを現代の私たちにも突きつけている。ソローは、「進歩」の名のもとに失われる内面的な豊かさや知的誠実さを見つめ直すよう、静かだが鋭く語っているのである。

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