「ワシントンの報告によれば、我々の推論はそちらの物理学者たちとまったく同じであった。このような情報が少なくとも特権的な立場の人々には入手可能であったにもかかわらず、なぜアメリカでは我々が広島以後まで爆弾の基本原理を完全に見落としていたと一般に考えられているのか、私には理解できない」

ヴェルナー・ハイゼンベルク(画像はイメージです)
ヴェルナー・ハイゼンベルク(画像はイメージです)
  • 1901年12月5日~1976年2月1日(74歳没)
  • ドイツ出身
  • 物理学者、ノーベル物理学賞受賞者

英文

”Reports in Washington show that our reasoning was just like that of your physicists. With all this information available, at least to privileged persons, I cannot understand why it is generally held in the United States that we completely missed the basic principle of the bomb until after Hiroshima.”

日本語訳

「ワシントンの報告によれば、我々の推論はそちらの物理学者たちとまったく同じであった。このような情報が少なくとも特権的な立場の人々には入手可能であったにもかかわらず、なぜアメリカでは我々が広島以後まで爆弾の基本原理を完全に見落としていたと一般に考えられているのか、私には理解できない」

解説

この言葉は、ドイツの原子力研究とアメリカの認識との間にある齟齬を示している。ハイゼンベルクは、ドイツの物理学者たちが原子爆弾の基本原理を理解していなかったというアメリカ側の評価に反論している。彼によれば、ドイツの研究者たちはアメリカの物理学者と同様に理論的理解を持っており、爆弾開発に至らなかったのは資源や体制の問題であって、科学的無知ではなかった。

ここには、戦後の歴史解釈をめぐる複雑な問題が反映されている。アメリカでは、マンハッタン計画の成功を際立たせるために、ドイツの研究を過小評価する傾向があった。一方でハイゼンベルクは、ドイツの物理学者たちが意図的に爆弾開発に踏み込まなかったのか、それとも能力的に及ばなかったのかという議論の中で、自身と同僚の名誉を守ろうとしたと考えられる。

現代においても、この問題は科学史と戦争責任の境界として論じられている。ドイツの原爆計画が実際にどこまで進んでいたのかは、今も歴史家の議論が続くテーマである。ハイゼンベルクの言葉は、科学者自身が戦後にどのように自らの役割を説明しようとしたかを示す貴重な証言であり、同時に科学と政治宣伝の交錯を映し出している。

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