「この世において恋人たちが、互いに愛を吐息のようにささやき、魂をそっと溶け合わせる瞬間を切望するように、神秘家もまた、祈りの中であたかも神の中へと忍び込むような瞬間を切望する」

- 1813年5月5日~1855年11月11日
- デンマーク出身
- 哲学者、神学者、作家
- 実存主義哲学の先駆者として知られ、「主体的真理」や「信仰の飛躍」といった概念を提唱。個人の内面的な葛藤と信仰の問題を深く掘り下げ、近代思想に大きな影響を与えた。
英文
“Just as in earthly life lovers long for the moment when they are able to breathe forth their love for each other, to let their souls blend in a soft whisper, so the mystic longs for the moment when in prayer he can, as it were, creep into God.”
日本語訳
「この世において恋人たちが、互いに愛を吐息のようにささやき、魂をそっと溶け合わせる瞬間を切望するように、神秘家もまた、祈りの中であたかも神の中へと忍び込むような瞬間を切望する」
解説
この言葉は、神秘的な祈りの経験を、人間の恋愛における最も繊細で親密な瞬間になぞらえた深い宗教的比喩である。恋人たちが言葉を超えた静かな交感を求めるように、神秘家(mystic)もまた、祈りを通して神と一体になろうとする魂の融合を切望する。ここには、宗教的体験が知性や論理ではなく、愛と沈黙による深い結合であるという実存的な理解が込められている。
キェルケゴールにとって、祈りとは単なる言葉のやり取りではなく、自己の奥底をさらけ出し、神との沈黙の中で交わる行為である。それは、自我が消え、「私」と「あなた」の境界があいまいになり、魂が神の中へと浸透していくような体験である。この名言は、その過程を恋人たちの間における密やかな交感にたとえ、神への憧れと親密さが極限まで高まった宗教的情熱を描いている。
現代においても、祈りや神との関係は形式化されがちであるが、この言葉はそれとは対照的に、内面的で情熱的な霊的結びつきの重要性を強調している。神と交わるとは、命令を聞くことでも、願いを述べることでもなく、恋人のように心を寄せ、自己を忘れて愛に身を委ねるような行為である。沈黙と優しさのうちに、神と魂が触れ合うその瞬間こそが、祈りの極致であると語られている。
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