「愛の奥処には、寸分たがわず相手に似たいという不可能な熱望が流れていはしないだろうか？」
- 1925年1月14日～1970年11月25日
- 日本出身
- 小説家、劇作家、評論家、政治活動家
- 『仮面の告白』『金閣寺』などで戦後日本文学を代表する存在となり、国内外で高い評価を得た。美と死を主題に独自の美学を追求し、最期は自衛隊駐屯地で割腹自殺を遂げた。文学と行動を一致させた生き様で今なお強い影響を与えている。
原文
「愛の奥処には、寸分たがわず相手に似たいという不可能な熱望が流れていはしないだろうか？」
解説
この言葉は、三島由紀夫が愛の本質に潜む同一化への衝動を鋭く捉えたものである。愛するという行為の奥底には、単に相手を理解したい、所有したいという欲望だけでなく、完全に一体となり、相手と同じ存在になりたいという激しい希求が隠されているという指摘である。ここでは、愛が自己と他者の境界を越えようとする根源的な欲求であることが示唆されている。
三島は、人間存在における孤独の根本的な不可避性を深く認識していた。戦後社会が個人主義を推し進める中で、彼はなお、個が個として生きる限り完全な孤独から逃れられないことを痛感していた。この言葉は、その孤独を打ち破ろうとする愛の絶望的な努力を描き出しており、三島独自の悲劇的な人間観を反映している。
現代においても、この洞察は重い意味を持つ。例えば、恋愛や親密な人間関係において、相手を深く愛するあまり、自他の境界を曖昧にしてしまう危うさが存在する。三島のこの言葉は、愛とは単なる優しさや共感を超えた、存在そのものを賭けた極限の希求であることを鋭く指摘しており、人間関係の深層を考える上で重要な示唆を与えるものである。
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