「恐れとは、悪が訪れるという予期から生じる苦痛である」

• 紀元前384年～紀元前322年
• 古代ギリシャのマケドニア出身
• 哲学者、科学者、学園「リュケイオン」設立者

英文

“Fear is pain arising from the anticipation of evil.”

日本語訳

「恐れとは、悪が訪れるという予期から生じる苦痛である」

解説

この名言はアリストテレスの『弁論術』における感情の定義と分析からの一節であり、彼が恐怖という感情を論理的かつ心理学的に捉えた視点を示している。彼にとって恐れとは単なる本能的反応ではなく、将来において悪や損害が起こる可能性を思い描くことによって生じる心の苦しみであり、未来への認識と主観的判断に深く関わっている感情である。

この定義によってアリストテレスは、恐れを他の感情と区別し、理性に基づく感情操作の対象とした。すなわち、人は実際に悪が起こっていなくても、それを想像し予測することによって、現実的な苦痛と同等の心理的苦悩を経験する。これは弁論や政治において、聴衆の感情を動かすために恐れを戦略的に用いる技法を正当化する理論的基盤ともなっている。

現代においても、この定義は心理学や神経科学の見地から見て非常に先進的である。恐怖症、不安障害、リスク判断などの研究においても、恐れが「予測された損失」によって引き起こされることは基本的な理解とされている。アリストテレスのこの名言は、人間の感情が理性と知覚に結びついていることを明示し、感情の哲学的理解に新たな道を切り開いた言葉である。

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