「不正な平和であっても、正義の戦争に勝る」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”An unjust peace is better than a just war.”
日本語訳
「不正な平和であっても、正義の戦争に勝る」
解説
この言葉は、戦争における「正義」という名目がいかに人命や秩序を損なうかを踏まえ、たとえ不完全で不満の残る平和であっても、それがもたらす安定と命の保全の価値は、正義の名において行われる戦争よりも優れているとするキケロの現実主義的な政治哲学を示す格言である。彼は、戦争がいかに高尚な目的を掲げようとも、そこには常に破壊、死、混乱がつきまとうという事実を直視していた。
キケロのこの考えは、『義務について(De Officiis)』における国家の在り方や戦争の正当性に関する議論に表れており、戦争はあくまで最後の手段であり、平和が得られるならば、多少の妥協や不正義を受け入れることすら選択肢とすべきであるという立場が見て取れる。特に、共和政末期のローマにおいて内戦と暴力が続いた時代背景のもと、政治的安定と秩序の維持がいかに困難で貴重であったかを彼は身をもって理解していた。
現代においてもこの格言は、戦争の正当化や介入主義的政策、あるいは革命の倫理に対する重要な視点を提供する。たとえば、「自由のため」「正義のため」といった大義が掲げられても、その代償として多くの命が失われ、国家や地域が荒廃する事例は後を絶たない。この格言は、道義的理想を掲げることの価値を否定するのではなく、結果としての犠牲と破壊の重みを直視し、「不完全な平和」こそが現実的かつ人道的選択肢であることを思い出させる警句である。キケロのこの言葉は、理想と現実の狭間に立つ政治判断において、真に何が公益なのかを問う、時代を超えた倫理的警鐘である。
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