「不確定性関係は過去には適用されない。もし電子の速度が最初に知られており、その後に位置が正確に測定されたならば、測定以前の時刻における位置は計算することができる」

- 1901年12月5日~1976年2月1日(74歳没)
- ドイツ出身
- 物理学者、ノーベル物理学賞受賞者
英文
”The uncertainty relation does not refer to the past; if the velocity of the electron is at first known and the position then exactly measured, the position for times previous to the measurement may be calculated.”
日本語訳
「不確定性関係は過去には適用されない。もし電子の速度が最初に知られており、その後に位置が正確に測定されたならば、測定以前の時刻における位置は計算することができる」
解説
この言葉は、不確定性原理の適用範囲についての重要な指摘である。不確定性原理は、位置と運動量を同時に正確に知ることができないという量子力学の基本法則である。しかしハイゼンベルクは、この制約は未来の予測に関わるものであり、過去の状態の再構成には妨げにならないと述べている。つまり、観測によって未来の予測は不確実になるが、過去については理論的に再計算できる余地があるということである。
この考え方は、量子論における「時間の非対称性」を理解する上で重要である。観測の瞬間に波動関数が収縮するため、未来の状態は確率的にしか記述できない。しかし、過去に遡って状態を計算する場合には、既知の情報を用いて一貫性を保つことが可能である。不確定性は未来に向かう予測を制限するが、過去の追跡には必ずしも同じ制限を課さないという点に特徴がある。
現代においても、この視点は有用である。例えば素粒子実験や天体物理学の観測では、現在のデータを基にして過去の事象(宇宙の初期状態など)を再構築する研究が進んでいる。そこでは未来を予測するよりも、過去を推定する作業の方が確実性を持ちやすいという現象が見られる。この名言は、量子力学が単なる不確定性の学問ではなく、時間に対する深い洞察を含んでいることを示しているのである。
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