「人が多くを忘れられるほど、その人生はより多くの変容を遂げうる。だが、多くを覚えていられるほど、その人生はより神聖なものとなる」

- 1813年5月5日~1855年11月11日
- デンマーク出身
- 哲学者、神学者、作家
- 実存主義哲学の先駆者として知られ、「主体的真理」や「信仰の飛躍」といった概念を提唱。個人の内面的な葛藤と信仰の問題を深く掘り下げ、近代思想に大きな影響を与えた。
英文
“The more a man can forget, the greater the number of metamorphoses which his life can undergo; the more he can remember, the more divine his life becomes.”
日本語訳
「人が多くを忘れられるほど、その人生はより多くの変容を遂げうる。だが、多くを覚えていられるほど、その人生はより神聖なものとなる」
解説
この言葉は、忘却と記憶という相反する力が人間の生に与える二重の価値を示している。忘れる力は、過去の失敗や痛みから解き放たれ、自己を再構築するための自由を与える。一方で、覚えている力は、経験の蓄積から深い知恵や一貫した生き方を可能にし、精神的な高みに至らせる。どちらも人間の成長に不可欠な側面である。
キェルケゴールにおいては、人間の実存とは連続的な「変容」と「統一性」とのあいだの緊張にある。多くを忘れられる者は、社会的役割や過去の自己像から解放され、再出発する勇気を持つ。一方、多くを記憶し保持する者は、自己の歴史と向き合い、それを超えて神的真理に近づこうとする実存的誠実さを体現する。この言葉は、その二つの道を対立させるのではなく、それぞれの持つ意味を強調している。
現代でも、忘却によるリセットと、記憶による成熟はともに価値を持つ。たとえば、新しい環境や挑戦に適応するためには、過去の常識を忘れることが求められる。しかし一方で、過去の教訓を生かして人生の深みを増すには、記憶が不可欠である。この言葉は、変化する勇気と、記憶を持ち続ける覚悟の両立が、豊かな人生を形作る鍵であることを静かに示している。
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