「幼い頃から、私の心には悲しみの棘が刺さっている。その棘がある限り、私は皮肉屋でいられる。だが、それが抜ければ、私は死ぬだろう」

- 1813年5月5日~1855年11月11日
- デンマーク出身
- 哲学者、神学者、作家
- 実存主義哲学の先駆者として知られ、「主体的真理」や「信仰の飛躍」といった概念を提唱。個人の内面的な葛藤と信仰の問題を深く掘り下げ、近代思想に大きな影響を与えた。
英文
“Since my earliest childhood a barb of sorrow has lodged in my heart. As long as it stays I am ironic; if it is pulled out I shall die.”
日本語訳
「幼い頃から、私の心には悲しみの棘が刺さっている。その棘がある限り、私は皮肉屋でいられる。だが、それが抜ければ、私は死ぬだろう」
解説
この言葉は、悲しみと自己表現との複雑な関係を深く描き出している。キェルケゴールは、自らの内的苦悩を存在の核として捉え、その痛みこそが彼の思索や皮肉的態度、哲学的探求の源であると語っている。ここでの「皮肉」は単なる嘲笑ではなく、自己と世界の距離を保ち、真理を求めて格闘する姿勢としての皮肉であり、それは苦しみによって支えられている。
この「悲しみの棘」は、キェルケゴールにとって実存的感受性の象徴でもある。彼は、自身の精神活動がこの絶え間ない悲しみと不安から生まれていることを認め、それを失うことはすなわち生きる意味そのものを失うことであると語る。この逆説的な構造こそ、キェルケゴールの思想の核心であり、苦しみが人間を深くし、真理に導く媒介であるという認識に支えられている。
現代においても、創造的な営みや深い思索が個人的な喪失感や心の痛みから生まれることは多い。たとえば、詩人、作家、芸術家などが抱える悲しみが、その表現を豊かにし、人の心を打つことがある。この名言は、苦悩を単なる障害ではなく、自己形成と思想の源泉として見つめる眼差しを与えてくれる。そして、人は悲しみとともに生きることでしか、真に自分を保つことはできないという、実存的真理を静かに告げている。
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