「害を受けた者がそれを返してはならない。いかなる理由があっても、不正を行うことは正しくないからだ。たとえどれほどひどい仕打ちを受けたとしても、他人に害を返したり悪をなすことは正しくない」

- 紀元前470年頃~紀元前399年
- 古代ギリシャのアテナイ(アテネ)出身
- 哲学者
英文
“One who is injured ought not to return the injury, for on no account can it be right to do an injustice; and it is not right to return an injury, or to do evil to any man, however much we have suffered from him.”
日本語訳
「害を受けた者がそれを返してはならない。いかなる理由があっても、不正を行うことは正しくないからだ。たとえどれほどひどい仕打ちを受けたとしても、他人に害を返したり悪をなすことは正しくない」
解説
この名言は、報復や復讐を否定し、いかなる状況においても正義を貫くべきだというソクラテスの道徳的立場を明確に示している。彼にとって「正しさ」とは、状況に応じて変わるものではなく、一貫して守るべき絶対的な徳であった。そのため、自分が不正を受けたからといって、それに報復することもまた不正であり、自らの魂を損なう行為とされた。
この思想は、特に『クリトン』の対話篇において強調される。死刑を宣告されたソクラテスに対して、友人たちは脱獄を勧めたが、彼は「不正によって命を延ばすことは、正義に反する」としてこれを拒否した。不正を受けたとしても、それを理由に同じ行為を返すことは魂の堕落に等しいと考えたのである。ここには、行為の道徳性は相手の行動によって左右されてはならないという強い倫理的信念が表れている。
現代においてもこの名言は、正義と倫理の根幹に関わる重要な問いを投げかけている。暴力に対して暴力で応じることや、被害者意識に基づく報復的行動は社会に深い分断を生む。ソクラテスのこの言葉は、真の正義とは、感情や利害を超えて他者への害を拒絶する姿勢にあるという普遍的な原理を教えてくれる。正義とは相手に対する反応ではなく、自分自身の原則として貫かれるべきものである。
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