「月の明るさを眺めていると、さまざまなことが遠くへ思いめぐらされ、過ぎ去ったことのつらかったことも、うれしかったことも、趣深いと思ったことも、まるで今起こっているかのように思われるときがある」

- 966年頃~1025年頃(諸説あり)
- 日本出身
- 作家、随筆家
原文
「月の明き見るばかり、ものの遠く思ひやられて、過ぎにしことの憂かりしも、嬉しかりしも、をかしとおぼえしも、ただ今のやうにおぼゆる折りやはある」
現代語訳
「月の明るさを眺めていると、さまざまなことが遠くへ思いめぐらされ、過ぎ去ったことのつらかったことも、うれしかったことも、趣深いと思ったことも、まるで今起こっているかのように思われるときがある」
解説
この一節は『枕草子』において、自然の光景と人の記憶が交錯する繊細な心理を描いた名文である。清少納言は、月の明るさを見つめると、心が自然と過去へと向かい、悲しかったこと、うれしかったこと、趣深かったことが、まるで現在の出来事のように鮮明に思い出されると述べている。この表現には、自然が人の記憶や感情を呼び起こす力への深い洞察がある。
平安時代の宮廷文化では、月は特に愛でられる対象であり、和歌や物語において「無常」や「もののあはれ」を象徴する存在であった。月を眺める時間は、静かな内省のひとときであり、移ろう時と変わらぬ自然の対比が、記憶を鮮やかに甦らせる契機となった。この一文は、そうした感覚を端的に表し、清少納言自身の感性の高さを示している。
現代においても、この感覚は共感を呼ぶ。月明かりや夜の静けさの中で、過去の出来事が突然鮮明に蘇る経験は、多くの人にある。この一文は、自然と記憶の結びつき、そして時間を超えて心に残る感情の力を語っており、千年を経てもなお変わらぬ人間の心理を美しく表現しているのである。
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