「春は夜明けがよい。だんだんと空が白みはじめ、山ぎわがわずかに明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいている様子は美しい」

- 966年頃~1025年頃(諸説あり)
- 日本出身
- 作家、随筆家
原文
「春はあけぼの。やうやうしろくなり行く、山ぎはすこしあかりて、むらさきだちたる雲のほそくたなびきたる」
現代語訳
「春は夜明けがよい。だんだんと空が白みはじめ、山ぎわがわずかに明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいている様子は美しい」
解説
この一節は『枕草子』の冒頭を飾る、日本文学史上屈指の名文である。清少納言は、四季の中で春の魅力を「夜明け」に見いだし、移ろう空の色や光、雲のたなびきといった自然の微妙な変化を、簡潔でありながら鮮やかに描写している。特に「やうやうしろくなり行く」「むらさきだちたる雲」という表現には、平安時代の宮廷人が持つ繊細な色彩感覚と、美的価値観が端的に示されている。
背景には、当時の貴族文化における「をかし」の美意識がある。「をかし」は、はっきりした美しさや華やかさではなく、控えめで移ろいやすい趣を愛でる感覚であり、夜明けの淡い光や雲の色合いはその典型であった。清少納言は、自然と時間の変化をとらえながら、そこに宿る無常感や優雅さを、簡潔かつ格調高い言葉で表現している。
現代においても、この情景は共感を呼ぶ。夜明けに見られる静けさと、空の微妙な色の変化は、今も人々を魅了し続けている。この一文は、自然の一瞬を切り取って美として描き出す力、そして言葉で情景を喚起する力を持つ、日本古典文学の象徴的な一文であり、千年を超えてなお人々の心に響き続けているのである。
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