「夏は夜がよい。月の出ている頃はもちろん、闇の中にたくさんのほたるが飛び交っているのもよい。また、ほんの一つ二つだけが、ほのかに光りながら行くのも趣深い」

- 966年頃~1025年頃(諸説あり)
- 日本出身
- 作家、随筆家
原文
「夏はよる。月の頃はさらなり、やみもなほ、ほたるの多く飛びちがひたる。また、ただひとつふたつなど、ほのかにうちひかりて行くもをかし」
現代語訳
「夏は夜がよい。月の出ている頃はもちろん、闇の中にたくさんのほたるが飛び交っているのもよい。また、ほんの一つ二つだけが、ほのかに光りながら行くのも趣深い」
解説
この一節は『枕草子』の冒頭近くに位置する有名な章段で、季節の美を感覚的にとらえた平安文学の代表的な表現である。清少納言は、夏の魅力を「夜」に見いだし、月の光や闇、そしてほたるの幻想的な光景を「をかし(趣深い)」と評価している。特に「ただひとつふたつなど、ほのかにうちひかりて行くもをかし」という一文には、静寂の中にほのかな光が漂う様子を愛でる繊細な美意識がにじむ。
この背景には、平安時代の宮廷文化における「をかし」の美学がある。それは華やかさや強烈さではなく、控えめで移ろいやすいものに趣を感じる感覚である。夏の夜に浮かぶ月や、暗闇を淡く照らすほたるの光は、まさにこの価値観を象徴する風物であった。この記述には、自然と心の調和を重んじる平安文化の本質がよく表れている。
現代でも、この感覚は共感を呼ぶ。夜に見る月やほたるの光に癒やしやロマンを感じる心は、千年を経ても変わらない。この一文は、自然の中のわずかな光や静けさに美を見いだす感性の普遍性を示し、私たちに「ゆるやかな時間を愛することの大切さ」を教えているのである。
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