「きまりが悪いもの……別の人を呼んだのに、自分だといって出てくる人。物を渡そうとしているときなどは、なおさらである」

- 966年頃~1025年頃(諸説あり)
- 日本出身
- 作家、随筆家
原文
「はしたなきもの こと人を呼ぶに、我ぞとてさし出でたる。物などとらするをりはいとど」
現代語訳
「きまりが悪いもの……別の人を呼んだのに、自分だといって出てくる人。物を渡そうとしているときなどは、なおさらである」
解説
この一節は『枕草子』の「はしたなきもの」の段に含まれ、社交の場における微妙な気まずさを的確に描いた表現である。清少納言は、ある人を呼んだのに、勘違いして別の人が「私のことだ」と出てきてしまう様子を「はしたなきもの」(気まずく、見苦しいもの)と述べている。特に、物を渡すために呼んだ場合は、さらにその場の居心地の悪さが増すという点が強調されている。
この背景には、平安時代の宮廷文化の特徴がある。当時は身分や立場が厳格に区別されており、呼び出される順序や相手の特定には細やかな配慮が求められた。そのため、呼ばれていない人が出てくることは、礼儀の破綻や場の調和の乱れと受け止められやすく、非常に「はしたない」行為とみなされたのである。
現代においても、この感覚は共感を呼ぶ。例えば、会議や授業で特定の人を指名したのに、別の人が勘違いして答えたり、荷物の受け渡しで間違えて取りに来る場合など、気まずさを感じることがある。この一文は、場の空気を読むことや、礼儀に沿った行動の大切さという普遍的な人間関係のマナーを鋭く表現したものであり、千年前から変わらぬ心理を映し出しているのである。
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