「きまりが悪いもの……しみじみとした話を誰かが語り出して、つい泣いたりするのを、本当に心打たれると思いながら聞いているのに、自分は涙がすぐには出てこないとき、とても気まずい」

- 966年頃~1025年頃(諸説あり)
- 日本出身
- 作家、随筆家
原文
「はしたなきもの・・・・・・あはれなる事など、人の言ひ出で、うち泣きなどするに、げにいとあはれなりなど聞きながら、涙のつと出で来ぬ、いとはしたなし」
現代語訳
「きまりが悪いもの……しみじみとした話を誰かが語り出して、つい泣いたりするのを、本当に心打たれると思いながら聞いているのに、自分は涙がすぐには出てこないとき、とても気まずい」
解説
この一節は『枕草子』の「はしたなきもの」の段に含まれ、感情表現と場の空気における微妙な心理的ズレを描いたものである。清少納言は、感動的な話に心を動かされていながらも、涙が出ないことを「はしたなし」(気まずい、体裁が悪い)と感じる状況を示している。ここには、周囲と同調できない自分へのもどかしさや、社交的な場における演出と本心の乖離が巧みに表現されている。
背景には、平安時代の宮廷社会で重んじられた感受性の共有がある。当時、「あはれ」を感じることは高い教養と美意識の証とされ、人々は自然や物語に対する情緒的反応を大切にした。そのため、感動すべき場面で涙が出ないことは、感性の不足と誤解されかねない焦りを生み、「はしたなさ」として強く意識されたのである。
現代においても、この感覚は共感を呼ぶ。映画や葬儀などで、周囲が涙している中で自分だけ涙が出ないとき、心の中で「感動しているのに」と思いながら、どこか気まずくなる。この一文は、感情表現と社会的期待との間にあるギャップという普遍的な人間心理を端的に描き、千年を超えてもなお共感を誘う名句である。
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