「腹立たしいもの……無理をしてまで隠れて横になっている人が、いびきをかいていること」

- 966年頃~1025年頃(諸説あり)
- 日本出身
- 作家、随筆家
原文
「にくきもの・・・・・・あながちなる所に隠し臥せたる人の、いびきしたる」
現代語訳
「腹立たしいもの……無理をしてまで隠れて横になっている人が、いびきをかいていること」
解説
この一節は『枕草子』の「にくきもの」の段に含まれ、人間の行動と心理のちぐはぐさを、辛辣かつユーモラスに描いた表現である。清少納言は、人目を避け、わざわざ窮屈な場所に隠れて横たわっているにもかかわらず、そこで平然といびきをかいている人を「にくきもの」、すなわち「憎らしいもの」と評している。ここには、緊張感や慎重さを欠いた行為への苛立ちと滑稽さが込められている。
この背景には、平安時代の生活習慣と恋愛文化がある。宮廷や貴族の邸宅では、男女の密会や人目を避ける行為は珍しくなく、時には隠れる必要もあった。そのような場面で、当人がいびきをかくのは、状況に対する無神経さや、秘密を守る意識の欠如を示し、周囲にとっては迷惑かつ不愉快であった。この描写には、清少納言の鋭い観察眼と、こうした「間抜けさ」への軽妙な批評精神が光っている。
現代においても、この感覚は理解できる。緊張を要する場面で無頓着な態度を取る人や、配慮を欠いた振る舞いを目にしたとき、同じような苛立ちを覚えることがある。この一文は、状況と行為の不釣り合いが生む違和感と苛立ちという、人間の普遍的な心理を、千年前の宮廷文化から現代まで鮮やかに伝えているのである。
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