「比べようもないもの……愛しく思う人と憎らしく思う人とでは。同じ人であっても、心を寄せてくれるときと、そうでないときとでは、本当に別人のように感じられる」

清少納言の名言(画像はイメージです)
清少納言の名言(画像はイメージです)
  • 966年頃~1025年頃(諸説あり)
  • 日本出身
  • 作家、随筆家

原文

「たとしへなきもの・・・・・・思ふ人と憎む人と。おなじ人ながらも、心ざしある折りと変りたる折りは、まことに異人とぞおぼゆる」

現代語訳

「比べようもないもの……愛しく思う人と憎らしく思う人とでは。同じ人であっても、心を寄せてくれるときと、そうでないときとでは、本当に別人のように感じられる」

解説

この一節は『枕草子』において、人間関係の不思議さと感情の変化の大きさを鮮やかに表したものである。清少納言は、愛情を抱いている人と憎しみを感じる人を「たとしへなきもの」、つまり「比べようのないもの」とし、さらに同じ人物であっても、自分への態度や心持ちによって、まるで別人のように見えると述べている。この感覚は、愛情と憎悪の距離が近いこと、そして人の心が移ろいやすいことを端的に示している。

この背景には、平安時代の恋愛や人間関係のあり方がある。当時の宮廷社会では、恋愛は和歌や文のやりとりを通じて築かれたが、その一方で嫉妬や不安も絶えずつきまとった。思われているときの相手はこの上なく美しく見えるが、関心が薄れると、同じ人物でも憎らしく見える――この心理の振れ幅を、清少納言は観察と体験を通じて的確に言語化しているのである。

現代においても、この感覚は普遍的である。恋愛や親しい関係において、愛と憎しみが隣り合わせであることは珍しくない。この一文は、人間の感情の複雑さと、その移ろいの激しさを象徴する名言であり、千年前の宮廷文化から現代まで変わらぬ人の心を映し出しているのである。

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