「過ぎ去った時が恋しく思われるもの……かつてしみじみと心を動かされた人の手紙を、雨が降って所在なく過ごす日などに探し出して読むこと」

- 966年頃~1025年頃(諸説あり)
- 日本出身
- 作家、随筆家
原文
「すぎにしかた恋しきもの・・・・・・折りからあはれなりし人の文、雨など降りつれづれなる日、さがし出でたる」
現代語訳
「過ぎ去った時が恋しく思われるもの……かつてしみじみと心を動かされた人の手紙を、雨が降って所在なく過ごす日などに探し出して読むこと」
解説
この一節は『枕草子』の「すぎにしかた恋しきもの」の段に含まれ、過去の思い出に浸る人間の感情を繊細にとらえた表現である。清少納言は、昔親しくしていた人の手紙を、雨の日の退屈な時間に読み返す行為を「恋しきもの」として挙げている。ここでの「恋しきもの」は、単なる懐古ではなく、当時の感情がよみがえり、胸にあふれる切なさや愛しさを意味している。
この背景には、平安時代の生活様式と恋愛文化がある。貴族社会では、恋愛や交際は和歌や手紙によって深められ、そのやりとり自体が大切な思い出となった。中でも、雨の日は外出が難しく、人々は室内で過ごす時間に手紙や物語を楽しんだ。この一文は、時間とともに変わるものと、変わらない心の動きを見事に描いており、宮廷文化の中で育まれた感性をうかがわせる。
現代でも、この感覚は共感を呼ぶ。古いメールや手紙、写真をふと見返し、当時の感情がよみがえる瞬間は誰しも経験する。特に、雨の日など静かな時間は、過去を懐かしむ気持ちを強くする。この一文は、過去の記憶に寄り添うことの甘美さと、そこに宿る人間の普遍的な情緒を語り、時代を超えて私たちの心に響くのである。
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