「世界に自己を神と主張する程の自惚者少なし。又自己を神の子なりと主張する程の馬鹿者少なし。故に万人の人に遇えば万人ながら皆不幸なり」

- 1867年2月9日~1916年12月9日(49歳没)
- 日本出身
- 小説家、評論家、英文学者
原文
「世界に自己を神と主張する程の自惚者少なし。又自己を神の子なりと主張する程の馬鹿者少なし。故に万人の人に遇えば万人ながら皆不幸なり」
解説
この言葉は、人間の自己認識と幸福の関係を皮肉を込めて述べたものである。漱石は、自己を絶対的な存在(神)と信じ込むほどの傲慢な者は少なく、また神の子であると無邪気に信じるほどの愚かな者も少ないと指摘する。つまり、多くの人間はその中間に位置し、どちらの極端な幸福感も得られない状態にあるという意味である。
歴史的背景として、近代日本は西洋思想と伝統的宗教観の間で価値観が揺れていた時代であった。西洋の個人主義やキリスト教的「神の子」観念は、日本人の自己理解に新しい視点をもたらしたが、それを全幅で受け入れることもできず、また完全な自尊や自己信仰を持つことも難しかった。この宙ぶらりんな立場こそが、漱石の言う「万人ながら皆不幸なり」の根拠である。
現代的にも、この考えは適用できる。自己を過信しすぎれば傲慢になり、逆に自分を過小評価すれば無力感に苛まれる。漱石の言葉は、極端な思い込みによる幸福と、現実的自己認識のもたらす不安定さを対比し、人間の宿命的な不満足さを鋭く表現している。
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