「ある人が云う。あまりしとやかに礼をする女は気味がわるい。またある人が云う。あまり丁寧に御辞儀をする女は迷惑だ。第三の人が云う。人間の誠は下げる頭の時間と正比例するものだ」

- 1867年2月9日~1916年12月9日(49歳没)
- 日本出身
- 小説家、評論家、英文学者
原文
「ある人が云う。あまりしとやかに礼をする女は気味がわるい。またある人が云う。あまり丁寧に御辞儀をする女は迷惑だ。第三の人が云う。人間の誠は下げる頭の時間と正比例するものだ」
解説
この言葉は、同じ行為でも人によって評価や感じ方が全く異なるという、人間の主観と価値観の多様性を示している。最初の二人は、過剰な礼儀作法を不快や迷惑と捉える一方、三人目はそれを誠意の表れと見る。つまり、一つの行動が好意的にも否定的にも解釈されることを、このやり取りは浮き彫りにしている。
背景には、夏目漱石の人間観察の鋭さと社会風刺がある。明治期の日本は、西洋式礼儀作法の導入や旧来の礼節観との混在期で、人々の礼儀に対する感覚が揺れ動いていた。漱石は、礼の形に対する評価が統一されることはなく、人の感覚や価値観は相対的であることを、この三者の意見の対比によって描き出している。
現代においても、この視点はビジネスや人間関係のマナー観の違いに通じる。ある人にとっては丁寧すぎる態度が誠意と映るが、別の人には形式的でわざとらしく見える。人の評価が多様である以上、行動の意味は一律に決まらず、受け手によって変化するというこの言葉は、対人関係の本質を突いたものである。
感想はコメント欄へ
この名言に触れて、あなたの感想や名言に関する話などを是非コメント欄に書いてみませんか?
「夏目漱石」の前後の名言へ
申し込む
0 Comments
最も古い