「著作家は葬られる運命を有している。無常を免れない。百年で葬られるか、十年で葬られるか、一年半年で葬られるかが問題である。それを葬られまいと思ってりきんで、支那では文章は不朽の盛事だ何ぞという。覚束ない事である」

森鴎外の名言・格言・警句(画像はイメージです)
森鴎外の名言・格言・警句(画像はイメージです)
  • 1862年2月17日~1922年7月9日(60歳没)
  • 日本出身
  • 小説家、評論家、翻訳家、軍医

原文

「著作家は葬られる運命を有している。無常を免れない。百年で葬られるか、十年で葬られるか、一年半年で葬られるかが問題である。それを葬られまいと思ってりきんで、支那では文章は不朽の盛事だ何ぞという。覚束ない事である」

解説

この言葉は、文学や著作の寿命と無常観についての現実的な見解を示している。森鴎外は、どれほど優れた作家であっても、いずれは忘れられ、作品は埋もれてしまう運命にあると断言している。違いがあるのは、その時期が百年後か、十年後か、もっと早いかという程度であり、永遠に残る作品などほとんど存在しないという冷徹な認識を持っていた。

この考えの背景には、鴎外自身が作家でありながら官僚や軍医としても活動し、歴史や文化の移り変わりを深く見てきた経験がある。中国には「文章は不朽の盛事」という考え方があったが、鴎外はそれを覚束ない(確実ではない)こととして退け、文学の不滅性という幻想を批判的に見ていた。ここには、名声や作品の永続性を過信せず、現実を直視する姿勢が表れている。

現代においても、この洞察は変わらない。デジタル技術により作品が物理的には長く残るようになっても、人々の記憶に残り続けるとは限らない。流行や関心の移り変わりは速く、多くの作品は短期間で忘れられる。著作家にとって大切なのは、不朽を狙うことよりも、その時代において最善を尽くすことという、この言葉に込められた教訓は、今もなお有効である。

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