「この世の絶頂の幸せが来たとき、その幸福の只中でなくては動かぬ思案があるのです」
- 1925年1月14日～1970年11月25日
- 日本出身
- 小説家、劇作家、評論家、政治活動家
- 『仮面の告白』『金閣寺』などで戦後日本文学を代表する存在となり、国内外で高い評価を得た。美と死を主題に独自の美学を追求し、最期は自衛隊駐屯地で割腹自殺を遂げた。文学と行動を一致させた生き様で今なお強い影響を与えている。
原文
「この世の絶頂の幸せが来たとき、その幸福の只中でなくては動かぬ思案があるのです」
解説
この言葉は、三島由紀夫が幸福の絶頂における特異な精神の働きを鋭く捉えたものである。幸福の絶頂とは単なる享楽ではなく、その極みに達したときにのみ、通常では決して動かないような深い思索や決断が生まれる瞬間があるという認識が示されている。ここでは、幸福そのものが精神を突き動かす奇妙な力について語られている。
三島は、幸福を享受するだけで終わるのではなく、その頂点においてこそ、人は運命を変えるような決断や、自らの存在に対する深い思案に向かう可能性があると考えた。幸福が満ち足りた瞬間、逆にそれを手放す覚悟や、次の段階へ進むための精神的な跳躍が生まれるのである。この言葉は、三島が持っていた幸福の受動的享受ではなく、能動的に生を超越しようとする美学を象徴している。
現代においても、この洞察は重要な意味を持つ。たとえば、安定や成功に満ちたときこそ、さらなる挑戦や自己超克を考えるべき契機となる。三島のこの言葉は、幸福の頂点で立ち止まらず、その只中でこそ次なる思索を深め、自己をさらに高めていけという真理を私たちに伝えているのである。
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