「法の教えは次の三つに要約される――誠実に生きること、他人に害を与えないこと、そしてすべての人にその当然の権利を与えること」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”The precepts of the law are these: to live honestly, to injure no one, and to give everyone else his due.”
日本語訳
「法の教えは次の三つに要約される――誠実に生きること、他人に害を与えないこと、そしてすべての人にその当然の権利を与えること」
解説
この言葉は、法の根本的原則を三つの倫理的命題として簡潔に定式化した、古代ローマ法思想の核心をなす格言である。第一に「誠実に生きる」とは、個人としての品位と正直さを守ることであり、法の精神に忠実であることを意味する。第二に「他人に害を与えない」とは、他者の権利を侵害せず、個人の自由と尊厳を尊重することである。そして第三に「すべての人にその当然の権利を与える」とは、公平さと正義を守るという法の究極目的を指す。
この三原則は、後世のローマ法学者ウルピアヌス(Ulpian)が『ディゲスタ(Digesta)』の中でまとめたものとして知られており、キケロ自身の文言であると断定することは難しい。しかし、キケロの法思想――特に『義務について(De Officiis)』や『法律について(De Legibus)』に見られる自然法と倫理の統合――とは深く響き合う内容である。彼もまた、正義の原則が理性と自然に根ざした普遍的なものであるべきだと考えていた。
現代においても、この三原則は、法の倫理的基盤として憲法・民法・刑法すべてに通底する理念である。たとえば、契約における信義則、加害行為に対する損害賠償、そして平等権の尊重といった法的実務の多くがこの三原則に立脚している。キケロの思想に由来するこの格言は、形式的な法の条文を超えて、法が守ろうとする倫理的・普遍的価値の本質を明示するものであり、今もなお法の理念を導く灯火となっている。
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