「私が存在しなくなるこれからの長い時間の方が、いまという短い現在よりも私に深い影響を及ぼす――それでいて、この現在は果てしなく感じられる」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”The long time to come when I shall not exist has more effect on me than this short present time, which nevertheless seems endless.”
日本語訳
「私が存在しなくなるこれからの長い時間の方が、いまという短い現在よりも私に深い影響を及ぼす――それでいて、この現在は果てしなく感じられる」
解説
この言葉は、死後の永遠の時間と、現在の瞬間との対比を通して、人間の存在に対する不安や思索を表現したキケロの深い内省を示している。彼は、自分が存在しなくなる「非存在の時間」の重みを、今この瞬間の連続よりも強く感じると述べることで、人間が有限な生を持つ存在であることの哲学的な苦悩と驚異を描き出している。
この考え方は、キケロの死生観、特に『トゥスクルム対話(Tusculanae Disputationes)』における魂と死の議論に密接に関係している。彼は、死とは「無」ではなく、存在の終焉によって訪れる「時間の彼岸」であり、そこに至る思索は哲学の核心であると考えた。この格言には、現在を生きていても、それを常に死の視点から相対化してしまう人間の理性のあり方が込められている。
現代においても、この言葉は死と時間に関する普遍的な問いとして大きな意味を持つ。私たちはしばしば、過去よりも未来に対して強い不安を抱き、存在しない「これから」の時間に心を奪われる。その一方で、「今」は果てしなく続くように錯覚し、時間の有限性を忘れてしまう。キケロのこの言葉は、有限な生の中で、時間という感覚がいかに主観的かつ逆説的であるかを鋭く見抜き、哲学的なまなざしでそれを静かに語っている。
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