「おお、哀れな人間よ。おまえが哀れなのは、そのありさまだけでなく、自らがいかに哀れかを知らぬことによっても哀れなのだ」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”O wretched man, wretched not just because of what you are, but also because you do not know how wretched you are!”
日本語訳
「おお、哀れな人間よ。おまえが哀れなのは、そのありさまだけでなく、自らがいかに哀れかを知らぬことによっても哀れなのだ」
解説
この言葉は、無知と自己認識の欠如が人間の悲惨をさらに深めるという、キケロの厳しくも深い人間観を表している。彼は、人間の苦悩や堕落は単にその状態のみによってではなく、自らの惨状を理解できないという無知そのものによってさらに深刻化すると考えていた。つまり、無知はそれ自体が一種の罪であり、理性を持つ者にとって最も根源的な不幸である。
この思想は、ソクラテスの「無知の知」やストア派の自己省察の思想にも通じる。キケロは、真の幸福や徳は自己認識を通じてのみ得られると信じていたため、自分が何者であるか、いかなる状態にあるかを知ることが、哲学と道徳の出発点であると見なした。この言葉は、そのような自己無知の危険性を鋭く突いた警句である。
現代においても、この言葉は鋭く響く。他者や社会の責任ばかりを論じ、自己の問題に気づかぬまま過ごすことの虚しさは、個人の成長や社会的成熟を妨げる根本原因となる。たとえば、偏見や思い込みに囚われたまま、それに気づかないことが対話や進歩を阻むという状況は今日でも珍しくない。キケロのこの言葉は、人間にとって最大の悲劇は苦境そのものではなく、それに気づかぬ無自覚にこそあるという普遍的な教訓を鋭く突きつけている。
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