「自然は消滅を嫌う」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”Nature abhors annihilation.”
日本語訳
「自然は消滅を嫌う」
解説
この言葉は、自然界における完全なる「無」や「消滅」という概念に対する本質的な拒絶を示すキケロの哲学的洞察である。彼は、物質も生命も、完全に無に帰すのではなく、形を変えながら循環し続けるという自然の根本原理を見出していた。つまり、「消滅」とは自然の中に本質的に存在しないものであり、自然は常に変化や再構成を通じて存在を保ち続けようとするという考え方である。
この思想は、キケロが影響を受けたストア派や古代ギリシャ自然哲学の影響も色濃く反映している。ストア派では、世界は秩序と理性に基づいており、すべては目的と連続性のもとで存在しているとされていた。また、アリストテレス的な自然観でも、自然は「空虚」や「絶対的無」を忌避するとされ、この言葉はそうした哲学的伝統に則った自然理解の表明ともいえる。
現代においても、この言葉は科学的にも詩的にも解釈可能である。たとえば、エネルギー保存則や物質不滅の法則において、「無からは何も生じず、存在は別の形へと変化し続ける」という自然法則は、まさにこの格言の科学的裏付けといえる。また、人間の死や破壊の中においても、何かが残り、再構成され、連続性が保たれるという思想は、精神的な慰めや哲学的希望としても受け取られている。キケロのこの言葉は、自然と存在に対する深い信頼と永続性の感覚を簡潔に伝える、力強い哲学的真理である。
感想はコメント欄へ
この名言に触れて、あなたの感想や名言に関する話などを是非コメント欄に書いてみませんか?