「法が多くなるほど、正義は少なくなる」

- 紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
- ローマ共和国出身
- 政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
英文
”More law, less justice.”
日本語訳
「法が多くなるほど、正義は少なくなる」
解説
この言葉は、法の条文や制度が増えることが、かえって真の正義の実現を妨げることがあるというキケロの法哲学的批判を凝縮した格言である。彼は、正義とは本来、自然法と理性に基づいた普遍的な倫理の実現であるべきであり、細かく複雑化した法律は時としてその精神を形骸化させ、形式に縛られた不公正な結果を生み出すと考えていた。つまり、法の数が増すことが必ずしも社会の公正や秩序を高めるとは限らず、むしろ本質から目を逸らす危険があるという立場である。
キケロは『義務について(De Officiis)』や『法律について(De Legibus)』の中で、法はあくまでも自然法に従うべきであり、正義・信義・公益といった根本原則に反する法律は無効であると述べている。彼にとって、法の目的は秩序の維持ではなく、正義の実現であり、条文の多さや複雑さによってそれが損なわれるのであれば、それは真の法ではない。この格言は、法の外形とその内に宿るべき正義の精神との緊張関係を、簡潔に突いた警句である。
現代においてもこの言葉は、法制度や立法過程のあり方に対して深い警鐘を鳴らす。規制や条文が増える一方で、それが現実の公平さや人権の保護と結びつかず、逆に不正義を温存することがある。例えば、抜け穴を多く含んだ法律や、複雑すぎて市民が理解・利用できない制度は、形式的には合法であっても実質的には不正義である。キケロのこの言葉は、「正義のための法」であるべきものが、「法のための法」となっていないかを問い直す、時代を超えた鋭い問いかけである。
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