「戦時には、法は沈黙する」

マルクス・トゥッリウス・キケロの名言
マルクス・トゥッリウス・キケロの名言

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。

英文

”Laws are silent in time of war.”

日本語訳

「戦時には、法は沈黙する」

解説

この言葉は、非常時においては通常の法秩序が停止または無力化されることを示す、キケロの冷徹な政治的現実認識を表した格言である。彼は、平時においては法が社会を統治する基本原理であるが、戦争や内乱といった極限状況では、その効力や実行力が大きく制限されることを認めざるを得ないと述べている。これは、正義と秩序を理想としながらも、現実の政治力学を鋭く見抜いていたキケロならではのリアリズムである。

この言葉は、紀元前63年のカティリナ陰謀事件の際に、キケロが非常措置として元老院に「セノートゥス・コンスルタム・ウルティムム(最終勧告)」(国家の危機に際し、法的手続きを簡略化して執政官に広範な権限を与える)を行使した際の状況とも深く関係している。秩序を維持するために法を一時的に停止するという矛盾に満ちた状況は、彼自身の政治的ジレンマでもあった

現代においてもこの言葉は、国家緊急権や戒厳令、戦時特例法の問題と密接に関係する。テロや大規模災害、戦争といった非常事態では、平時の憲法や人権の保護が制限されることが正当化されうるが、それが濫用されれば独裁や人権侵害に直結する危険性もある。キケロのこの格言は、法と安全、自由と秩序という価値の緊張関係を見据えつつ、非常時における統治の倫理と限界を深く問いかける警句である

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