「精神が肉体よりも強い限りにおいて、精神に生じる病は、肉体に生じるそれよりも深刻である」

マルクス・トゥッリウス・キケロの名言
マルクス・トゥッリウス・キケロの名言

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。

英文

”In so far as the mind is stronger than the body, so are the ills contracted by the mind more severe than those contracted by the body.”

日本語訳

「精神が肉体よりも強い限りにおいて、精神に生じる病は、肉体に生じるそれよりも深刻である」

解説

この言葉は、人間における精神の優位性と、そこに起こる病や苦しみの深刻さを対比的に述べたものである。キケロは、人間を導くべきは理性を宿す精神であり、それゆえに精神に生じる歪みや病は、肉体的な傷や病気よりもはるかに重大であると考えた。つまり、精神の苦しみこそ人間存在を根底から揺るがす本質的な脅威であるという見解がここに表れている。

この思想は、古代ローマにおけるストア派やキケロ自身の倫理哲学の核心と一致している。ストア派では、心の平静(ataraxia)と理性の支配を徳の基盤とし、精神の混乱や欲望の暴走を最大の「悪」と見なしていた。キケロもまた、嫉妬、怒り、恐怖、絶望といった情念がもたらす内的崩壊の深刻さを強く警戒していた。精神が強大であるがゆえに、その病もまた深く、癒しが困難なのである。

現代でもこの見解は極めて有効である。身体の病気は医学の進歩によって多くが治療可能であるが、うつ病や不安障害、トラウマなど精神的な病は、より複雑で根深い課題として社会に残っている。また、倫理的堕落や自己認識の欠如といった「精神の病」は、個人だけでなく社会全体に深刻な影響を及ぼすこともある。キケロのこの言葉は、精神の健康と徳こそが人間の本質であり、その崩壊がいかに重大なものであるかを明快に指摘している

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