「ときに何もしないことがない者は、私には自由人とは思われない」

マルクス・トゥッリウス・キケロの名言
マルクス・トゥッリウス・キケロの名言

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。

英文

”He does not seem to me to be a free man who does not sometimes do nothing.”

日本語訳

「ときに何もしないことがない者は、私には自由人とは思われない」

解説

この言葉は、真の自由とは絶え間ない行動や生産性ではなく、自らの意志で「何もしない時間」を選び取る力にあるというキケロの人間観を示している。彼は、自由とは外的強制からの解放だけでなく、内面的な選択の余地を持つことにあると考え、「何もしない」という一見消極的な状態も、主体的に選ばれたものであれば、それこそが自由の証であると捉えていた。

この思想は、キケロが親しんだストア派やアリストテレス的伝統とも調和する。たとえば、観想(theōria)や自省の時間、あるいは精神の休息が、人間にとって最高の幸福や知的活動をもたらすとされる考え方に通じている。常に忙しく動いていることが必ずしも徳や自由を意味するわけではなく、思索や静けさの中にこそ人間の尊厳があるという認識が、この言葉の背景にある。

現代社会においてもこの言葉は強い共鳴を持つ。絶えず仕事や情報に追われる日々の中で、何もしない時間に罪悪感を覚える人が多いが、むしろその「間(ま)」にこそ創造性や回復力、自己との対話が宿る。たとえば、深い思索、散歩、静かな読書といった「無為」の時間が、真の豊かさと精神の自由を育む。キケロのこの言葉は、行動の中断を恐れず、何もしないことを肯定することで、私たちの生き方に深い自由の意味を与えてくれるのである。

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