「帝国と自由」

マルクス・トゥッリウス・キケロの名言
マルクス・トゥッリウス・キケロの名言

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。

英文

”Empire and liberty.”

日本語訳

「帝国と自由」

解説

この短い言葉は、支配(帝国)と自律(自由)という政治的価値の対立と緊張を象徴的に表したキケロの政治思想の核心的テーマである。キケロの生きた共和政末期のローマでは、帝国(imperium)すなわち絶対的な軍事・行政権が膨張し、伝統的な市民の自由(libertas)と制度的均衡が脅かされつつあった。「帝国」と「自由」は表面的には両立しうるものの、現実にはしばしば互いに矛盾し、片方が強まればもう一方が弱まる関係にあるという認識が、この言葉の背景にある。

キケロは『国家について(De Re Publica)』や『義務について(De Officiis)』などで、共和政における自由(libertas)の重要性を強く訴え、カエサルのような個人の独裁による帝国的支配を痛烈に批判した。彼にとって自由とは、法と制度に守られた市民の平等と発言権の保障であり、それは元老院や民会といった制度の維持によって守られるべきものであった。帝国的権限がこれを覆すとき、ローマはもはや共和政ではなく、専制に陥ると危惧した。

現代においても「帝国と自由」は、国家権力と個人の自由、または覇権国家と民主的秩序の対立構造として読み替えることができる。たとえば、大国が安全保障や秩序維持の名のもとに影響力を拡大すればするほど、国内外における自由や人権が抑圧されるリスクが高まる。キケロのこの言葉は、力と正義、支配と自律の関係を問う永遠の命題として、政治的緊張と選択の本質を静かに突きつける表現である

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