「すべての苦痛は激しいか軽いかのいずれかである。軽ければ容易に耐えられるし、激しければ確実に長くは続かない」

紀元前106年1月3日~紀元前43年12月7日
ローマ共和国出身
政治家、弁護士、哲学者、雄弁家
共和政ローマを代表する弁論家・思想家として知られ、ラテン文学とローマ法の発展に多大な影響を与えた。政治的混乱の中で共和政の理想を擁護し、著作を通じて西洋政治思想と修辞学に大きな遺産を残した。
英文
”All pain is either severe or slight, if slight, it is easily endured; if severe, it will without doubt be brief.”
日本語訳
「すべての苦痛は激しいか軽いかのいずれかである。軽ければ容易に耐えられるし、激しければ確実に長くは続かない」
解説
この言葉は、痛みに対する理性的な理解と精神的克服を説いた、キケロのストア派的哲学の反映である。ここでは、苦痛の性質を冷静に分類し、「耐えることができる軽さ」か「短く終わる激しさ」のいずれかであるとすることで、苦痛に対する恐れを理性の光で和らげようとする姿勢が示されている。つまり、いかなる苦しみであれ、理性と自制によって対処可能であるという信念に基づいている。
この思想は、キケロが『トゥスクルム対話(Tusculanae Disputationes)』の中で詳述する、死や苦痛に対する哲学的態度の一部として語られている。彼は、肉体的・精神的な苦しみを恐れるのではなく、それらを客観的に理解し、魂の平静(ataraxia)を保つことこそが賢者の道であると説いた。この見解は、彼が影響を受けたストア派やエピクロス派の教えとも共鳴しており、苦痛を絶対的な悪とは見なさず、それに対する態度こそが重要だとする立場である。
現代においてもこの格言は、病気、心の苦しみ、人生の困難などに直面する際の精神的支えとして深い意味を持つ。たとえば、慢性的なストレスや痛みがあるとしても、それが「軽ければ耐えられ、重ければ必ず終わる」という考えは、不安や絶望から回復するための合理的な視座を与える。キケロのこの言葉は、痛みという避けがたい現実に向き合うとき、理性と節度によって心の自由を守ることができるという、古代から現代に至るまで変わらぬ哲学的真理を明快に語っている。
感想はコメント欄へ
この名言に触れて、あなたの感想や名言に関する話などを是非コメント欄に書いてみませんか?