「わずかな土地や少しの金をもらえば、私たちは友人に感謝する。しかしこの大地の自由と支配、そして私たちの存在、生命、健康、理性といった偉大な恩恵については、私たちは何の恩義も感じていないかのように振る舞う」

- 紀元前1年頃~紀元65年
- ローマ帝国出身
- 哲学者、政治家、劇作家、倫理思想家
- ストア派哲学の代表的人物として知られ、道徳と内面の自由を重視する思想を展開。皇帝ネロの教育係を務めた後、政治から退き著述に専念し、多くの書簡や悲劇作品を通じて後世の倫理思想やキリスト教思想にも影響を与えた。
英文
“We can be thankful to a friend for a few acres, or a little money; and yet for the freedom and command of the whole earth, and for the great benefits of our being, our life, health, and reason, we look upon ourselves as under no obligation.”
日本語訳
「わずかな土地や少しの金をもらえば、私たちは友人に感謝する。しかしこの大地の自由と支配、そして私たちの存在、生命、健康、理性といった偉大な恩恵については、私たちは何の恩義も感じていないかのように振る舞う」
解説
この言葉は、人間が日常的で具体的な贈与には感謝を示す一方で、根源的で決定的な恩恵には無自覚であるという精神の偏りを批判している。セネカは、感謝とは外的な贈り物に対してのみ向けられるべきものではなく、存在そのものや自然、宇宙の秩序といった、はるかに大きな恩恵に対しても抱かれるべきであると考えた。つまり、私たちが当然と思い込んでいるものこそ、本来最も深く感謝されるべきであるという逆説的な指摘である。
セネカにとって、理性ある人間は、自然の中に存在すること自体に対し謙虚でなければならない。この名言には、ストア派の根本思想――宇宙全体との調和の中で生きることの尊さ――が色濃く表れている。土地や金のような物質的な贈与には即座に反応しながら、生命、健康、理性という最も貴重で本源的な贈与に対して鈍感であることは、感謝の不完全さの現れである。
現代においても、目に見える利益には反応しても、生きていることの奇跡や健やかな状態の尊さには無関心な人は多い。セネカのこの言葉は、当たり前と見なしているものこそ、最も深く感謝すべき対象であるという視点を与えてくれる。物ではなく存在そのものへの感謝こそが、真に成熟した心の証であるという、倫理的かつ霊的な教訓がこの名言には込められている。
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