「医者は狂人の無節制に腹を立てたり、熱に浮かされた患者に罵られても気を悪くしたりしない。賢者もまた、すべての人々を医者が患者に接するように扱い、彼らをただ病んだ者、取り乱した者として見なすべきである」

- 紀元前1年頃~紀元65年
- ローマ帝国出身
- 哲学者、政治家、劇作家、倫理思想家
- ストア派哲学の代表的人物として知られ、道徳と内面の自由を重視する思想を展開。皇帝ネロの教育係を務めた後、政治から退き著述に専念し、多くの書簡や悲劇作品を通じて後世の倫理思想やキリスト教思想にも影響を与えた。
英文
“A physician is not angry at the intemperance of a mad patient, nor does he take it ill to be railed at by a man in fever. Just so should a wise man treat all mankind, as a physician does his patient, and look upon them only as sick and extravagant.”
日本語訳
「医者は狂人の無節制に腹を立てたり、熱に浮かされた患者に罵られても気を悪くしたりしない。賢者もまた、すべての人々を医者が患者に接するように扱い、彼らをただ病んだ者、取り乱した者として見なすべきである」
解説
この言葉は、人間の愚かさや悪意に対して怒りを持たず、むしろ慈しみと理解をもって接するべきだというセネカの道徳的理想を表している。ストア派においては、他人の非理性的な行動に動揺したり感情的に反応することは、自己の理性の欠如の表れとみなされる。ここでセネカは、賢者は医者のように、理性を失った人々を「病んだ者」として冷静かつ思いやりを持って扱うべきだと説いている。
医師が患者の症状や言動を病気の一部と理解し、個人攻撃として受け取らないように、賢者もまた、他人の怒り、嫉妬、傲慢、無知といった行動を精神的な「病」と見なし、それに巻き込まれることなく理性を保たなければならない。この態度は、人間の弱さを責めるのではなく、理解と節度をもって応じるという高度な倫理的態度を意味している。
現代社会でも、他人の攻撃的な言動や不合理な行動に振り回されず、冷静さと寛容さを保つことは重要な課題である。セネカのこの名言は、感情の応酬ではなく、理性と慈悲に基づく応答こそが、人間としての成熟と徳の証であると教えてくれる。他人を責めるのではなく、理解し、導く存在であれという哲学的呼びかけが、この一文には込められている。
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