「徳が失われると仁が現れ、仁が失われると義が現れ、義が失われると礼が現れる。礼はただの正しさと真理の影であり、混乱の始まりである」

- 紀元前571年?~紀元前470年?
- 中国出身
- 哲学者
英文
“When virtue is lost, benevolence appears; when benevolence is lost, right conduct appears; when right conduct is lost, expedience appears. Expediency is the mere shadow of right and truth; it is the beginning of disorder.”
日本語訳
「徳が失われると仁が現れ、仁が失われると義が現れ、義が失われると礼が現れる。礼はただの正しさと真理の影であり、混乱の始まりである」
解説
この言葉は、老子が説く徳の退化と形式主義への批判を体系的に示している。本来、最上の徳(道徳的完全さ)は、自然で無為の状態にあるときに最も純粋で力強い。だが、それが失われると、人はそれを補おうとして「仁(やさしさ)」を掲げるようになる。さらに仁までもが失われると、「義(正義)」という行為の正しさに頼り、それすらも崩れると、礼(儀礼・形式)という見かけの正しさに陥る。
老子にとって、「礼」は道や徳の真の姿ではなく、中身を失った外側だけの影にすぎない。そしてそれは、人々が本質を見失い、混乱と偽りに陥っていく兆しである。ここには、真理とは自然な在り方の中にあり、制度化や形式化によっては本当の調和は得られないという、深い道家の警告が込められている。
現代においても、倫理や制度が形骸化し、形式だけが尊ばれるような状況に直面することは多い。老子のこの言葉は、根本の「徳」や「道」を忘れ、表面的な正しさに頼ることが、社会の混乱と虚偽を生むという普遍的な真理を、鋭くかつ静かに語っている。
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