「天と地の生まれる以前に、混沌としていながらも完全なるものがあった。音もなく、形もなく、何にも依らず、変わることもなく、あまねく働いて危うさがない。それは万物の母と呼ぶべきものである。その名は知らぬが、私はそれを『道』と呼ぶ」

- 紀元前571年?~紀元前470年?
- 中国出身
- 哲学者
英文
“There was something undifferentiated and yet complete, which existed before Heaven and Earth. Soundless and formless, it depends on nothing and does not change. It operates everywhere and is free from danger. It may be considered the mother of the universe. I do not know its name; I call it Tao.”
日本語訳
「天と地の生まれる以前に、混沌としていながらも完全なるものがあった。音もなく、形もなく、何にも依らず、変わることもなく、あまねく働いて危うさがない。それは万物の母と呼ぶべきものである。その名は知らぬが、私はそれを『道』と呼ぶ」
解説
この言葉は、『道徳経』の中でもとりわけ宇宙の根源原理としての「道(タオ)」を詩的かつ哲学的に表現した一節である。老子は、「道」は天地や万物が生まれる以前から存在する、無形・無音・無依存の存在であり、それゆえに完全で、危うさがなく、すべてを支える本質的な力だと述べている。
ここで描かれている「道」は、いかなる神や法則とも異なる、名づけることすらできない絶対的な存在である。老子はその無名性を尊び、言葉で定義できないが確かに存在する根源的実在として「道」を提示する。これは、知識や言葉の限界を超えて、直感や沈黙によってこそ接近できる真理への信仰でもある。
現代においても、この教えは科学や哲学、宗教の根本的な問いに重なり合う。宇宙の始まり、生命の根源、存在の本質を問うとき、人はつい説明や理論を求めるが、老子はその前に、名づけえぬものへの畏敬と沈黙を持てと説く。老子のこの言葉は、存在の深奥にある「道」への謙虚なまなざしを今も私たちに思い出させてくれる。
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