「禁欲の原理は、いかなる生き物によっても一貫して実行されたことはなく、また決して実行できない。もし地球の住民のわずか十分の一がそれを一貫して行えば、一日のうちに世界を地獄に変えてしまうだろう」

- 1748年2月15日~1832年6月6日(84歳没)
- イギリス出身
- 哲学者、法学者、社会改革者
英文
”The principle of asceticism never was, nor ever can be, consistently pursued by any living creature. Let but one tenth part of the inhabitants of the earth pursue it consistently, and in a day’s time they will have turned it into a Hell.”
日本語訳
「禁欲の原理は、いかなる生き物によっても一貫して実行されたことはなく、また決して実行できない。もし地球の住民のわずか十分の一がそれを一貫して行えば、一日のうちに世界を地獄に変えてしまうだろう」
解説
この言葉は、ベンサムが禁欲主義に対する批判を述べたものである。禁欲とは快楽を否定し苦行を重んじる生き方を指すが、ベンサムはそれを一貫して追求することは生物としての本能に反するため不可能であると断言している。さらに、もし社会の一部でも徹底的に禁欲を実践すれば、幸福は奪われ、苦痛と不毛さが支配する地獄のような世界になると警告している。
この考えは、ベンサムが展開した功利主義の文脈で理解される。功利主義は快楽を善、苦痛を悪とし、人間の行動や制度を評価する基準とした。したがって、快楽を否定する禁欲は功利主義の原理に真っ向から対立する思想である。18世紀から19世紀のヨーロッパでは、宗教的・道徳的価値観として禁欲が称揚されることもあったが、ベンサムはそれを人間の幸福を損なう非合理な原理として退けたのである。
現代社会においても、この指摘は意義深い。極端な禁欲的思考は、個人の精神的健康や社会全体の活力を損なう危険を孕んでいる。一方で、無制限な快楽追求もまた害悪を招く。したがって、ベンサムの言葉は、人間の本性に合致した適度な快楽の追求こそが幸福をもたらすという功利主義の核心を端的に示しており、現代の倫理や生活態度においても重要な示唆を与えている。
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