「世界は私に一度だけ与えられているのであって、存在する世界と知覚される世界という二つがあるのではない。主観と客観はただ一つである。物理学における最近の経験の結果としてその障壁が打ち壊されたと言うことはできない。というのも、その障壁はもともと存在しないからである」

- 1887年8月12日~1961年1月4日(73歳没)
- オーストリア出身
- 理論物理学者
英文
”The world is given to me only once, not one existing and one perceived. Subject and object are only one. The barrier between them cannot be said to have broken down as a result of recent experience in the physical sciences, for this barrier does not exist.”
日本語訳
「世界は私に一度だけ与えられているのであって、存在する世界と知覚される世界という二つがあるのではない。主観と客観はただ一つである。物理学における最近の経験の結果としてその障壁が打ち壊されたと言うことはできない。というのも、その障壁はもともと存在しないからである」
解説
この言葉はシュレーディンガーの一元論的世界観を示している。彼は世界を「存在するもの」と「知覚されるもの」に分ける二元論を退け、主観と客観は本質的に一体であると考えた。物理学が観測者の役割を強調するようになった時代背景を踏まえつつも、シュレーディンガーはそもそもその境界が虚構に過ぎないと主張している。
20世紀前半、量子力学は観測問題を通じて「観測者と対象の関係」をめぐる大きな議論を生んだ。コペンハーゲン解釈は観測の役割を強調し、世界を「観測前」と「観測後」に分けるように理解された。しかしシュレーディンガーは東洋思想、特にウパニシャッドの哲学に影響を受け、世界はそもそも不可分の一体性を持つと考えた。この言葉は、物理学的な経験に依存せず、哲学的にその一体性を主張している点で特徴的である。
現代においてもこの視点は重要である。神経科学や認知科学の発展により、知覚そのものが世界との相互作用の一部であることが明らかになりつつある。また、量子もつれや非局所性の研究も、観測者と対象の境界を問い直す契機を与えている。この名言は、科学と哲学の両面から、「世界と私」は本質的に分けられないという洞察を示すものとなっているのである。
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