「子供より親が大事、と思いたい。子供のために、などと古風な道学者みたいなことを殊勝らしく考えてみても、何、子供よりも、その親のほうが弱いのだ」

- 1909年6月19日~1948年6月13日(38歳没)
- 日本出身
- 小説家
原文
「子供より親が大事、と思いたい。子供のために、などと古風な道学者みたいなことを殊勝らしく考えてみても、何、子供よりも、その親のほうが弱いのだ」
解説
この言葉は、太宰治が親と子の関係における力学の逆転を描いたものである。一般的には「子供のために親は犠牲になる」と語られるが、太宰はその道徳観を疑い、実際には子供よりも親のほうが弱く、子に依存しているという真実を突きつけている。ここには、家庭の中での親の不安定さや脆弱さを正直に認める太宰らしい逆説的な観察がある。
昭和初期の家父長的な社会においては、親は権威として子供を導く存在とされていた。しかし太宰は、自身の家庭経験や人間観から、親はむしろ子供の存在に救いを求める弱い存在であると見抜いた。子供が未来を象徴するのに対し、親はその未来にすがり、愛情と同時に依存を抱えてしまう。この言葉は、そうした矛盾を露わにしている。
現代においても、この言葉は普遍的な示唆を持つ。親は「子供のため」と口にしながら、実際には自分自身の孤独や不安を子供によって埋め合わせていることがある。例えば、子供の成功に過剰に期待したり、存在そのものに生きる意味を託してしまう姿は少なくない。太宰のこの言葉は、親子関係の裏に潜む依存や弱さを冷徹に見抜き、親と子を理想化しないリアルな人間観を示しているのである。
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