「不幸のさなかに幸福を思い出すほどの悲しみはない」

- 1265年頃~1321年9月14日
- イタリア(フィレンツェ共和国)出身
- 詩人、哲学者、政治家
英文
“There is no greater sorrow than to recall happiness in times of misery.”
日本語訳
「不幸のさなかに幸福を思い出すほどの悲しみはない」
解説
この名言は、『神曲』地獄篇第5歌において、ダンテが情欲に溺れた罪人たちの輪に入り、フランチェスカ・ダ・リミニの物語を聞く場面で語られる。彼女はかつての恋と快楽の記憶を語りながら、「思い出すことこそが苦しみの最たるものだ」と嘆く。この一言は、地獄で語られる愛と悔恨の象徴的な言葉として広く知られている。
この言葉が示すのは、過去の幸福な記憶が現在の苦しみをより一層際立たせるという心理的な真理である。失われたものの輝きが、今ある暗闇をさらに深く感じさせるという構造は、人間の感情の本質に深く根差している。幸福が一度でも存在したからこそ、その不在は痛みとなる。これは、地獄に堕ちた魂の中にさえ人間らしい情感が生き続けていることを表している。
現代においても、喪失や後悔の感情に苦しむとき、かつての幸せを思い出すことが慰めではなく苦痛となる瞬間は珍しくない。この言葉は、記憶と感情の交錯が人をいかに深く揺さぶるかを示す、詩的かつ普遍的な真理の表現である。ダンテの人間観の深さを物語る一節として、文学的にも心理学的にも非常に高い評価を受けている。
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