「私は涙を流さなかった。ゆえに内なる心は石となった」

- 1265年頃~1321年9月14日
- イタリア(フィレンツェ共和国)出身
- 詩人、哲学者、政治家
- 叙事詩『神曲』の作者として知られ、中世ヨーロッパ文学の頂点を築いた。トスカーナ語(イタリア語)の発展にも寄与し、「イタリア語の父」とも称される。現世・煉獄・天国を旅する壮大な構想を通じて、宗教・倫理・政治の問題を詩的に表現した。
英文
“I wept not, so to stone within I grew.”
日本語訳
「私は涙を流さなかった。ゆえに内なる心は石となった」
解説
この言葉は、『神曲』地獄篇第33歌において、ウゴリーノ伯爵が自身の悲劇を語る場面に登場する。彼は子どもたちとともに飢えによる死を迎えた壮絶な体験を、冷静かつ悲痛に語るが、あまりに深い苦しみの中で涙すら枯れ、心が石のように硬くなったという表現がここに込められている。
この一節は、極限の悲しみや絶望が人間の感情をも凍結させることを詩的に描いている。ダンテはこの場面で、理性と感情がともに麻痺し、もはや人間としての感覚さえも失っていくという、地獄の苦しみの深さを読者に突きつける。涙を流すことすら赦されぬ苦痛こそが、地獄における最大の地獄であるという逆説がここにある。
現代においても、悲しみに打ちひしがれながらも涙を流せず、心を閉ざすような経験をする人々は少なくない。この言葉は、感情が枯渇するほどの苦しみの存在を象徴し、それが表面的な静けさの裏にある激烈な痛みを想像させる力を持つ。詩的かつ人間の極限を描いた、ダンテの筆の冴えが際立つ一節である。
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