「困難から逃げることは臆病の一形態であり、自殺者が死に立ち向かうというのは事実だが、それは高貴な目的のためではなく、ある苦しみから逃れるために行うのである」

- 紀元前384年~紀元前322年
- 古代ギリシャのマケドニア出身
- 哲学者、科学者、学園「リュケイオン」設立者
英文
“To run away from trouble is a form of cowardice and, while it is true that the suicide braves death, he does it not for some noble object but to escape some ill.”
日本語訳
「困難から逃げることは臆病の一形態であり、自殺者が死に立ち向かうというのは事実だが、それは高貴な目的のためではなく、ある苦しみから逃れるために行うのである」
解説
この言葉は、アリストテレスが『ニコマコス倫理学』において論じた勇気と自殺に関する倫理的区別を示している。彼にとって勇気とは、正しい目的のために恐れに抗して行動する中庸の徳であり、無謀さや臆病さとは異なる理性的行動である。自殺は一見すると死を恐れない勇敢な行為のように思われるが、アリストテレスはそれを困難からの逃避であり、勇気とは正反対の行為と見なした。
自殺には「死を選ぶ」という決断が含まれるものの、アリストテレスにとって行為の道徳的価値は意図と目的に依存する。すなわち、公益や徳の実現といった高い目的ではなく、苦痛や不運からの逃避としての死は、徳に基づいた選択とは言えない。そのため、死に直面すること自体は価値判断の基準にはならず、いかなる目的で行動するかが道徳的判断の核心となる。
現代においては、自殺に関する倫理的・心理的理解が深まりつつあり、個人の苦悩や精神的苦痛に対する同情的な視点が重視されている。しかし、アリストテレスのこの名言は、行為の倫理性を目的と動機から評価するという普遍的な倫理原理を示しており、人間の尊厳とは、苦しみの中でもなお意味を問い、徳を求める意思にあるという古典的な視座を今に伝えている。
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