「詩人は画家や他の芸術家のように模倣者であるため、必然的に次の三つの対象のいずれかを模倣しなければならない。すなわち、物事をありのままに、またはあるべき姿に、あるいは思われている姿である。表現の手段は言葉であり、日常的な言葉であるか、珍しい言葉や比喩であるかもしれない」
- 紀元前384年~紀元前322年
- 古代ギリシャのマケドニア出身
- 哲学者・科学者で学園「リュケイオン」の設立者
- プラトンの弟子で、論理学、生物学、政治学、倫理学などにおいて体系的な知識を構築し、西洋の思想や科学の発展に大きな影響を与えた
英文
”The poet, being an imitator like a painter or any other artist, must of necessity imitate one of three objects – things as they were or are, things as they are said or thought to be, or things as they ought to be. The vehicle of expression is language – either current terms or, it may be, rare words or metaphors.”
日本語訳
「詩人は画家や他の芸術家のように模倣者であるため、必然的に次の三つの対象のいずれかを模倣しなければならない。すなわち、物事をありのままに、またはあるべき姿に、あるいは思われている姿である。表現の手段は言葉であり、日常的な言葉であるか、珍しい言葉や比喩であるかもしれない」
解説
この言葉は、詩人が模倣する対象と、その表現方法の多様性についてアリストテレスが述べたものである。彼は、詩人が「模倣者」であり、芸術家として三つの対象を模倣できると考えた。第一に、物事をそのまま表現する「現実の姿」、第二に、物事がどう思われているか、あるいは言われているかという「認識された姿」、そして第三に、物事がどうあるべきかという「理想の姿」である。詩人はこれらの対象を言葉を使って描写し、その表現には日常的な言葉や珍しい言葉、あるいは比喩が用いられることがある。アリストテレスにとって、詩は現実と理想、認識の間を行き来しながら、言葉という芸術の媒介を通じて多様な視点を表現するものである。
アリストテレスは、詩が現実と理想の両方を反映する手段であると見なしていた。詩人は現実そのものだけでなく、理想的な状態や人々の主観的な解釈をも表現する役割を持つ。詩の表現が比喩や珍しい言葉を用いるのは、物事をより深く、あるいは象徴的に捉えるためであり、言葉によって感情や思想が強く伝わるようになる。詩が他の芸術形式と異なるのは、その表現が言葉であり、その言葉が人々の理解や想像力を駆り立て、対象を新しい角度から示すための手段となることだとアリストテレスは考えた。
具体例として、物語詩における英雄像の描写が挙げられる。たとえば、ある英雄が戦場で勇敢に戦う姿を詩に描く場合、詩人はその英雄をありのままに描写することもできるし、社会が理想とする姿として描写することもできる。また、その英雄がどのように言われ、思われているかを詩に反映させることで、読者に多角的な視点を提供することができる。このように、詩人が描く対象は単なる現実だけでなく、物事の理想的な姿や人々の主観的な見解をも含むものである。
現代においても、アリストテレスのこの考えは、文学や芸術の多様な表現とその意義を理解するうえで重要な指針となっている。文学や詩が私たちに提供するのは、単なる現実の描写だけでなく、私たちが抱く理想や社会の見方、さらには物事の本質を探るための方法である。言葉を通じた表現の自由さが、詩における創造的な可能性を広げ、現実を超えた深い洞察を読者に与える。
アリストテレスのこの言葉は、詩が現実と理想、主観と客観の間を行き来しながら、言葉によって多様な表現を可能にする芸術であることを教えている。詩人は言葉を巧みに操り、現実や理想の多面性を描写することで、読者に新たな視点や感情を喚起する。この視点は、詩や文学の本質と、言葉が持つ力を再認識するための重要な教えである。
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