「恋愛の徴候の一つは彼女に似た顔を発見することに極度に鋭敏になることである」

• 1892年3月1日～1927年7月24日
• 日本出身
• 小説家、評論家

原文

「恋愛の徴候の一つは彼女に似た顔を発見することに極度に鋭敏になることである」

解説

この名言は、恋愛に陥った人間の心理的な変化を鋭く観察した一句である。芥川は、恋に落ちた者が無意識のうちに、対象となる人物の面影をあらゆる場所に求め始めるという心理現象に注目している。これは単なる恋情の高まりではなく、視覚や記憶の働きまでをも変容させる情動の力を示している。

ここで強調されているのは、「極度に鋭敏になる」という表現である。これは、普段なら見過ごすような似顔や輪郭にさえ反応してしまう感受性の過敏化を意味する。このような変化は、恋愛が感覚と認知にまで及ぶ一種の陶酔状態であることを物語っている。

現代においても、SNSや街中などで「誰かに似ている」と感じてしまう瞬間は多くある。芥川のこの言葉は、恋愛とは単に心の作用ではなく、世界の見え方すら変えてしまう体験であることを詩的かつ冷静に表現しているのである。

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