「彼はただ薄暗い中にその日暮らしの生活をしていた。いわば刃のこぼれてしまった、細い剣を杖にしながら」

- 1892年3月1日~1927年7月24日
- 日本出身
- 小説家、評論家
原文
「彼はただ薄暗い中にその日暮らしの生活をしていた。いわば刃のこぼれてしまった、細い剣を杖にしながら」
解説
この名言は、生きる気力を失い、かつての誇りや鋭さがすっかり磨耗した人物の姿を、芥川独特の詩的比喩で描いている。「刃のこぼれてしまった、細い剣」とは、本来は戦うための道具でありながら、もはや武器としての機能を失った存在である。しかもそれを「杖」として使っているという点に、過去の象徴を頼りに生きる弱々しい姿勢が読み取れる。
芥川はここで、単に「その日暮らし」の生活を批判しているのではない。むしろ、光を見失った知識人や芸術家の精神的荒廃を象徴的に語っていると解釈すべきである。芥川自身が晩年に感じていた、創作力の枯渇や存在意義の喪失、時代との乖離といった内的苦悩が、この比喩に凝縮されている。特に「薄暗い中」という表現は、希望や展望を欠いた閉塞した世界観を象徴している。
この言葉は、現代にも重く響く。社会の中で役割を見失い、かつての経験や肩書きだけを頼りに日々を過ごす人々は少なくない。失われた力への執着と、それでもなお生き続けようとする姿を、芥川は簡潔ながら痛切なイメージで描き出している。剣が杖へと変わるその瞬間に宿る哀しさと人間性を、私たちはこの名言から読み取るべきであろう。
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