「大勢の人々の叫んでいる中に一人の話している声はけっして聞えないと思われるであろう。が、事実上必ず聞えるのである。わたしたちの心の中に一すじの炎の残っている限りは」

- 1892年3月1日~1927年7月24日
- 日本出身
- 小説家、評論家
原文
「大勢の人々の叫んでいる中に一人の話している声はけっして聞えないと思われるであろう。が、事実上必ず聞えるのである。わたしたちの心の中に一すじの炎の残っている限りは」
解説
この名言は、喧騒や混乱の中でも、真実の声や静かな理性は決してかき消されることはないという、芥川の深い信念を表している。多くの人々が感情的に叫び合うなか、一人の静かな語り手の声は無力に見える。しかし芥川は、それでもなおその声は届くと断言する。それは、聞く側の心の中に「一すじの炎」――希望、良心、理性が残っている限り、という条件付きである。
この言葉は、芥川が社会の中で感じていた知性と良心の孤立や疎外感の裏返しでもある。大正から昭和初期にかけて、日本は急速な近代化と社会的混乱の中にあり、思想的な喧騒や過激な言説が飛び交っていた。その中で芥川は、一見弱く見える「静かな声」こそが真に届くべきものだと考えていた。その声は群衆の叫びに掻き消されそうでいて、実は聞く耳を持つ者の心にまっすぐ届くのである。
現代においてもこの言葉は共鳴する。SNSやメディアの喧噪のなかで、静かで誠実な言葉は見落とされがちだが、それを聞き取ろうとする「一すじの炎」が我々の内にある限り、真実は沈黙しない。芥川のこの名言は、良識と理性を信じ続けることの意味を静かに、しかし力強く語っているのである。
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