「古来いかに大勢の親はこういう言葉を繰り返したであろう。ーー『わたしは畢竟失敗者だった。しかしこの子だけは成功させなければならぬ』」

- 1892年3月1日~1927年7月24日
- 日本出身
- 小説家、評論家
原文
「古来いかに大勢の親はこういう言葉を繰り返したであろう。ーー『わたしは畢竟失敗者だった。しかしこの子だけは成功させなければならぬ』」
解説
この名言は、親が子に託す願望や執念、そしてそれに潜む自己投影の危うさを描いたものである。芥川は、歴史の中で無数の親たちが、自らの人生を「失敗」と見なすことにより、その救済を子どもの「成功」に託してきた構造を指摘している。ここで言う「成功」とは、社会的地位や世間的評価であることが多く、それは必ずしも子自身の望みではない。
この言葉には、芥川の冷徹な人間観と社会観が滲んでいる。彼はしばしば、家庭や親子関係における愛情の名を借りた押しつけや、個人の自由を奪う制度的構造に批判的なまなざしを向けていた。この名言も、親の「善意」に隠された野心、未練、あるいは自己否定の投影をあぶり出している。とりわけ「畢竟失敗者だった」という表現には、過去を総括し断罪するような重さがあり、それゆえに子どもにかかる期待もまた過剰となるのである。
現代でもこの問題は色あせていない。教育熱や進路指導の名のもとに、子どもが親の自己実現の道具として扱われる例は後を絶たない。芥川のこの言葉は、親が抱く「成功への願望」が時に子どもを追い詰め、人生の重荷となることを鋭く指摘し、真の愛とは何かを静かに問いかける批評的名言なのである。
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