「単純さは尊い。が、芸術における単純さというものは、複雑さの極まった単純さなのだ」

- 1892年3月1日~1927年7月24日
- 日本出身
- 小説家、評論家
原文
「単純さは尊い。が、芸術における単純さというものは、複雑さの極まった単純さなのだ」
解説
この名言は、芸術における「単純さ」の本質は、浅薄さではなく、深い複雑さを乗り越えた先にのみ得られる境地であるという芥川の美学的信念を語っている。単純であることは一見容易そうに見えるが、芥川はそれを高度な知性と技術、そして構築の積み重ねの末に生まれる純化された形と捉えている。つまり、本当の単純さは、多くの迷いや試行錯誤を経た果てにしか到達し得ない芸術的成熟の証なのである。
この言葉は、芥川自身の創作姿勢と密接に関わっている。彼は簡潔で洗練された文体を持ちながら、その背景には緻密な構成力と深い思想性があった。若き日には技巧に傾きすぎることを自覚しつつも、晩年にはより簡素で内面的な表現へと向かっていった。その過程で彼が得た確信こそが、「複雑さの極まった単純さ」という表現に凝縮されている。
現代においてもこの名言は重い意味を持つ。情報や表現が氾濫する社会において、「シンプルなもの」が持てはやされる一方で、その裏にある洗練や鍛錬を理解せずに単純を目指すと、かえって浅薄になりがちである。芥川のこの言葉は、真に力のある単純さとは、複雑さを知り尽くした者だけが手にできる到達点であるという、創作の真理を鋭く突いているのである。
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