「僕は医者に容態を聞かれた時、まだ一度も正確に僕自身の容態を話せたことはない。従って嘘をついたような気ばかりしている」

芥川龍之介の名言・格言・警句(画像はイメージです)
芥川龍之介の名言・格言・警句(画像はイメージです)
  • 1892年3月1日~1927年7月24日
  • 日本出身
  • 小説家、評論家

原文

「僕は医者に容態を聞かれた時、まだ一度も正確に僕自身の容態を話せたことはない。従って嘘をついたような気ばかりしている」

解説

この名言は、自分の身体や心の状態を言葉で正確に表現することの難しさを述べたものである。芥川はここで、主観的な感覚と客観的な説明との齟齬に悩んでいる。医者に容態を問われても、痛みや不調がどのようなもので、どの程度かを「正確に」伝えることができない。そのために、自分でも意図せずに「嘘をついたような気分」に陥ってしまうのだ。

この感覚は、自己観察に鋭敏な芥川らしい繊細な心理描写である。彼は健康に対して常に不安を抱いており、精神的な苦痛にも敏感であった。そのため、「正確に伝える」という誠実さに対するこだわりと、それが果たせないことへの罪悪感が、この言葉にはにじみ出ている。つまり、本当に誠実であろうとする者ほど、曖昧な伝達に苦しむのである。

現代でも、医療現場での「症状の説明」は患者にとって困難なことが多い。芥川のこの名言は、言葉によって他者に自分の内面や痛みを正しく伝えることの限界と、それがもたらす無力感や疎外感を静かに表現している。言葉の不完全さに対する鋭い自覚と、人間のコミュニケーションの不確かさに向き合った、深い洞察のひとつである。

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