「僕は僕の住居を離れるのに従い、何か僕の人格もあいまいになるのを感じている。この現象が現れるのは僕の住居を離れること、三十マイル前後に始まるらしい」

- 1892年3月1日~1927年7月24日
- 日本出身
- 小説家、評論家
原文
「僕は僕の住居を離れるのに従い、何か僕の人格もあいまいになるのを感じている。この現象が現れるのは僕の住居を離れること、三十マイル前後に始まるらしい」
解説
この名言は、場所と自己意識との結びつきを繊細に描いたものである。芥川は、自分の住居――すなわち日常生活の場――が、自己の人格の輪郭を保つ支えであることを感じている。距離が広がるにつれ、人格が曖昧になるという感覚は、自己というものが環境と切り離せない存在であることを暗示している。
ここでの「三十マイル」は象徴的な表現であり、自己の同一性が揺らぎ始める臨界点を示しているとも解釈できる。これは単なる地理的距離ではなく、精神的な居場所を喪失する不安や、根なし草のような感覚の比喩である。芥川にとって、住居は単なる空間ではなく、アイデンティティの拠点であり、それを離れることは自己の曖昧化をもたらす行為なのである。
この感覚は、現代人にも通じる。慣れ親しんだ環境から離れることで、自分が何者であるかがわからなくなるという経験は、多くの人が持つ普遍的な不安である。芥川はその内的変化を、距離という客観的な指標で巧みに捉えた。これは単なる旅行者の感想ではなく、人間存在の不確かさに向き合う文学者の直感的洞察である。
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